| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S29-3 (Presentation in Symposium)
博物館の収蔵標本のうち、動物の標本のほとんどは乾燥標本またはホルマリンやエタノール中での液浸標本として保管されている。これら収蔵標本の大部分はDNA解析を行う前提ではない研究や調査などで収集・保管されたものであり、近年までは動物の収蔵標本をDNA解析の対象にした例は多くない。いくつかの先行研究では数百bpのDNA解析が行われていたが、一般に数十年前の博物館収蔵標本ではDNA解析は難しいとされてきた。さらに、これまでの多くの研究ではDNAの劣化の指標としてPCRが使われていたため、実際の標本DNAの状態はあまり良くわかっていなかった。そこで様々な標本DNAから複数の方法を用いてDNAを抽出し、標本DNAの状態を明らかにするとともに標本DNAの有効性の評価を試みた。まず電気泳動によって様々な年代の標本のDNAの状態を計測したところ、年代が経つにつれDNA断片長が短くなりDNA量も大きく減少していることが明らかになった。また、様々な温度で昆虫の乾燥標本を保管したところ、高温下では急速にDNAの断片化が進むことが明らかになった。ホルマリン固定エタノール液浸標本ではクロスリンクを除去する処理方法によってDNAの収量に大きな差が出ることが明らかになった。一方で、超並列型のシーケンサーの普及によって世界的に標本DNAの解析は大きく進展しており、近年では様々な生物で標本DNAの解析が行われている。そこで様々な標本DNAをもとにライブラリを作成しミトコンドリアゲノムの解読を試みた。その結果、古い標本では見かけ上DNAが取れていてもカビや常在菌などのコンタミの比率が非常に大きい場合があった。本講演ではこれらについて紹介するとともに、標本DNAの解析で得られた系統解析の結果についても紹介し標本DNAの有効性と問題点について考察する。