| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S29-6  (Presentation in Symposium)

植物標本を利用した全ゲノムリシーケンス-過去100年間における適応遺伝子の探索-
Whole genome resequencing of herbarium specimens: Identifying the adaptive genes during the past century

*久保田渉誠(東大)
*Shousei KUBOTA(Univ. Tokyo)

博物館に収蔵されている標本は当時の生態情報が詰まったタイムカプセルであり、そのDNA情報は過去の集団動態や系統進化を明らかにする上で極めて重要な知見をもたらす。さらに、DNA情報を時系列順に比較することで、進化の実体である遺伝子頻度の時間的変化も観測可能になる。次世代シーケンス技術の発展により、標本を対象とした研究が増えつつある一方で、経年的なDNAの分解や変質がどのようにゲノムデータに影響を与えるのかを詳細に調べた研究は少ない。ここでは植物標本を対象とした全ゲノムリシーケンス解析から、収蔵期間がゲノムデータに与える影響と、標本ゲノムを利用した適応遺伝子の探索について紹介する。本研究ではアブラナ科シロイヌナズナ属のハクサンハタザオを対象に、1902~2001年にかけて採取された標本由来の133個体と、2010年に採取した野外由来の66個体の全ゲノムリシーケンスを行った。その結果、DNA断片化の主因である脱プリン化反応とDNA配列の置換を引き起こす脱アミノ化反応が検出され、収蔵期間との相関関係も示された。経年的な断片化により、標本由来のDNAは断片化処理を施した野外由来のDNAよりも短く、PCRによるゲノムライブラリの増幅が必須であった。それにも関わらず、ゲノム全体の9割を超える領域をカバーするデータを得ることができ、野外由来のサンプルと比較しても遜色がなかった。その一方で、断片末端における脱アミノ化反応は最終的なデータセットにもバイアス(古い標本ほどC→T置換が増える)を与え、解析の前に補正すべきであることが示された。また、遺伝子頻度、遺伝的多様性、連鎖不平衡などを指標に過去100年間に自然選択を受けたと考えられる遺伝子領域を探索したところ、多くの適応的変異は異なる集団間でも維持されており、既存変異を利用することで迅速な適応進化を果たしている可能性が示唆された。


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