| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S29-7  (Presentation in Symposium)

生態学者こそ、博物館標本を利用しよう!
Let's ecologists use specimens deposited in museums

*大西亘, 渡辺恭平(神奈川県博)
*Wataru OHNISHI, Kyouhei WATANABE(Kanagawa Prefectural Museum)

 近年、自然史標本が研究資料として広く利用されつつあることは、標本収蔵する博物館等の機関の社会的役割とその持続可能性の点からも歓迎すべき状況と言える。ただし、自然史標本の研究利用の拡大は現在緒に就いたばかりであり、科学研究としての持続可能性を考える上で様々な課題がある。
 自然史標本研究の成果発表においては、科学研究としての反証可能性を担保するため、参照した標本の適切な引用が必要である。同時に、自然史標本は科学研究の証拠として必要に応じて研究者の参照に応じることのできる状態で適切に管理され、半永久的に保管される必要がある。これらの点は科学研究における研究者の成果発表とその研究試料管理の意義として、至極当然のことのように感じられるが、個別の標本利用事例の中で関係者間の確認がなされることはあっても、広く自然史標本を利用する研究者や標本管理を担う学芸員の間で明確な合意形成やルールの策定はなされていない。特に、過去自然史標本の多くは“生物分類学のための”標本として管理、運用されてきた経緯もあり、生態学やその他の科学研究の証拠として管理されることが想定されていない側面もある。また、博物館等の標本収蔵機関は科学研究に利用可能な標本の整備と保管に多大なる労力を費やしているが、現状ではその貢献が可視化されにくく、科学研究の基盤を下支えしているにもかかわらず、研究者も含めてその社会的認知度が低い状況にある。
 自然史標本研究に関わる様々な課題がある中で、標本、研究成果ともに学術資源としてのサーキュレーションを意識し、自然史科学の発展と持続可能性を目指す自然史標本の適切な利用について、自然史標本を利用する研究者、標本管理を担う学芸員を含む幅広い関係者間で、活発な議論が実施される必要がある。本シンポジウムにおいては、こうした背景の上で個別事例についてのコメントを実施する予定である。


日本生態学会