| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
自由集会 W03-1 (Workshop)
山岳では、動物が標高によって異なる植生を利用することで過酷な環境に適応している可能性がある。屋久島は標高1,936mの山であり、植生は垂直に変化する。屋久島の山頂部は、標高1,700mを超えると森林からササ類の一種のヤクシマヤダケ(Pseudosasa owatarii: 以下ササと略)に覆われるササ原になる。本研究は屋久島の低地から高地に生息するヤクシカ(Cervus nippon yakushimae)とヤクシマザル(Macaca fuscata yakui)の2種の哺乳類を対象にし、山頂付近の植生帯の利用の種差とその要因を調べた。調査は2015年8月から2018年4月まで行われた。ササと樹木の展葉・結実フェノロジーを調べた。また、ルートセンサスとカメラトラップを用いて、2種の哺乳類のササ原と森林の利用、採食品目も調べた。ササの成熟葉は通年で存在し、芽とタケノコは春から秋まで存在していた。ヤクシカはすべての季節でササ原を利用し、ササの成熟葉の採食がみられた。一方で、ヤクシマザルは冬のササ原の利用は見られず、ササの芽の髄とタケノコ以外の採食は確認されなかった。次に、ササの複数の部位と標高1,400mから1,700mの森林に存在した樹木の成熟葉、新葉、果実に関して灰分、脂肪、タンパク質、NDF、消化可能タンパク質の項目に分けて栄養分析をおこなった。ヤクシカの採食が確認されたササの成熟葉は他の品目に比べ繊維比率が高く、難消化性の採食物であることが分かった。シカは複胃動物であり、単胃動物のニホンザルよりも一般的に繊維比率の高い食物を食べることができる。これらの2種の哺乳類の消化器官の差が、屋久島の山頂部のササ原における季節移住のパターンの違いを反映していると考えられる。