| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


自由集会 W03-2  (Workshop)

南アルプス北部におけるニホンジカの季節移動
Seasonal migrations of sika deer in the northern part of Southern Japan Alps.

*瀧井暁子, 泉山茂之(信州大学山岳科学拠点)
*Akiko TAKII, Shigeyuki IZUMIYAMA(Shinshu Univ. IMS)

南アルプスは、日本第2位の高峰、北岳をはじめとする3,000m級の山々の連なる地域である。ニホンジカは1990年代後半には南アルプス主稜線まで生息域を広げ、現在は希少な高山植物群落の消失が懸念されている。発表者らは仙丈ヶ岳周辺の南アルプス北部におけるGPSテレメトリー調査により、当地域のニホンジカが世界的にも例のない著しい標高移動を伴う季節移動を行うことを明らかにした。本発表では、夏季に標高2,500m以上の高山環境を利用した7頭のオスジカについて、1)季節移動のパターン、2)利用標高と積雪分布面積の変化、3)高山環境における群落利用について報告する。7頭の高山環境の滞在期間は約60〜105日と個体により異なったが、高山に到達した日はいずれも6月中旬〜下旬の短い期間で一致していた。どの個体も6月は標高差500m以上の「山登り」をしていたが、これはNDSIによる積雪面積が急減する時期と一致していた。融雪と植生フェノロジーは明確な関係性があることが知られており、6月の「山登り」は展葉初期の栄養価の高い植物を採食するためであった可能性が高い。標高2,800m以上に約70日間滞在していた1頭は、ハイマツ群落、高茎草本群落、風衝草原を主に利用していたが、標高2,500〜2,700mに滞在していた6頭は主にダケカンバ群落を利用していた。当地域でダケカンバ林の林床に優占するイネ科草本が、高山滞在時におけるニホンジカの主要な食物資源となっていた可能性がある。


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