| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
自由集会 W06-1 (Workshop)
現在のスギ天然林には4つの遺伝的系統(北東北日本海側、日本海側、太平洋側、屋久島)があることが分かっている。本州では脊梁山脈を挟む東西で大きく2つに分かれ、北東北の本海側系統が日本海側系統から分かれる。一方、屋久島系統は太平洋側系統に近いが、他の集団と比べて遺伝的分化の程度は高い。DNAマーカーを用いたコアレセント解析によると、これらの遺伝的系統は過去数万〜数十万年前の分岐によって形作られたと推定されている。また、化石花粉のデータならびに生態ニッチモデリングによると、氷期にはスギの分布の中心は西南日本の日本海側にあり、それ以外の北東北、太平洋側、屋久島などの地域では、集団サイズが大きく縮小していたと考えられている。これらのことより、現在の遺伝的系統の形成には、氷期の分布縮小による集団の隔離が大きな影響を与えていると予想される。他方、これらの系統は気候的にも大きく異なる地域に分布しており、それぞれの環境から異なる自然選択圧を受けてきたと考えられる。広域に分布する植物種では、しばしば自生環境への遺伝的適応を示す局所適応が認められる。スギにおいても、相互移植試験地のデータなどから、局所適応の存在が示唆されている。また、最近のゲノムワイドなDNA多型解析からは、系統間で高い遺伝的分化を示す遺伝子座や、環境傾度と強い相関を示す遺伝子座など、スギの局所適応に関わる可能性のある候補遺伝子も多数検出されている。現在我々の研究グループでは、全国のスギ天然林の挿し木苗からなる産地試験地を用いて、遺伝データの取得と様々な形質データの測定を通して、スギの局所適応の遺伝的基盤を明らかにすることを目的に研究を行っている。本発表ではその取り組みの一端を紹介する。