| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
自由集会 W09-1 (Workshop)
日本では,「生物多様性条約」(1993)以降,外来生物の侵入は生物多様性を脅かす主要な要因として認識されているが,侵略的外来種100にあがっている木本種は,アカギ,イタチハギ,ハリエンジュの3種のみである。しかし実際には強い侵略性と定着性によって木本外来種はその生活史や繁殖性から,長い時間スケールで生態系に大きな影響を与える(Maesako et. al. 2007; 石田ほか,2012; 前迫・稲田,2013; 前迫,2015;日置ほか,2015)。
ニホンジカ(以後,シカ)の高密度生息域である照葉樹林(特別天然記念物春日山原始林)では国内外来樹木ナギNageia nagiと外来樹木ナンキンハゼTriadica sebiferaが侵入,定着,拡散している。照葉樹林に拡散した2種の木本外来種は,シカが採食しない不嗜好植物という共通点を有する。その一方,両種の生態的特性はまったく異なり,ナギは,耐陰性が高い重力散布型および風散布型で初期成長は遅く,ナンキンハゼは耐陰性が低い鳥散布型で初期成長が早い。寿命は,前者が数百年以上,後者は数十年の先駆種である。両種ともに萌芽性を有し,とくにナンキンハゼは3年連続伐採しても萌芽能力を有し,ギャップ下での管理が困難である。
照葉樹林への侵入時期はナギが室町時代に春日大社に献木された集団からの拡散で,すでにイチイガシ林からナギ林へと森林が置き換わり,不可逆的ともいえる変化が生じている。一方,ナンキンハゼは1930年代に奈良公園に植栽された樹木から逸出し,景観レベルの影響が生じている。
これら2種は高密度状態で生息するシカの影響下で拡散したものであるが,シカ柵実験区内では,国内外来種アオモジ(Litsea cubeba, 九州以南)が急速に成長している。高密度状態で生息するシカが照葉樹林への外来種拡散に与える影響について議論したい。