| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


自由集会 W10-2  (Workshop)

誰がその島の生態系を作るのか?答えは西之島が教えてくれる
Who is the driver of ecosystem establishment? Recently erupted Nishinoshima shows the answer

*川上和人(森林総合研究所)
*Kazuto KAWAKAMI(FFPRI)

 島という隔離環境における生態系の成立プロセスの解明は、島嶼生物学の大きなトピックの1つである。多くの場合は既に成立した生態系から過去を推定するしかないが、稀に新たな陸地が誕生することで、そのプロセスを検証可能となる場合がある。1883年の噴火で新たな陸地が生じたインドネシアのクラカタウ島や、1963年の噴火で新島が形成されたスルツェイ島などでは、そのプロセスが長期的にモニタリングされている。またハワイや三宅島などでは溶岩上のクロノシーケンス研究により植生遷移が研究されている。ただし、これらの系では20km以内に森林や隣島があるため、その生物相の影響を強く受けていると考えられる。
 小笠原諸島の西之島は最も近い父島列島から130km離れた、非常に孤立した島である。この島は2013年からの噴火により旧島の陸地の98%が溶岩に埋没し、面積は約10倍の2.9㎢に拡大した。2019年末現在、溶岩の埋没を免れた陸地は約0.5haとなっている。
 噴火後の西之島では、UAVによる遠隔調査と2回の上陸調査(2016年9月、2019年9月)により生物相のモニタリングが行われている。その結果、旧島には噴火以前に分布していた生物が少数生残しており、これらは新たな陸地に分布を拡大しつつあることが確認された。また、一般には菌類や地衣類が進出した後に植物が分布を拡大して一次遷移が進み、植物遺体と母岩により土壌が形成されると考えられているが、西之島ではまず海鳥が進出し海鳥由来の有機物が分解されることで、植物を介さずに土壌生成が始まっている可能性があることが確認された。
 この島のような孤立した環境で広面積の新陸地が形成された例は、世界的にも他にない。西之島はガラパゴスやハワイ、小笠原などのような孤立した海洋島の生態系の成立プロセスを再現できる唯一の場所と言え、今後モニタリングを続けることで島嶼生物学の発展に大きく寄与できると言える。


日本生態学会