| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


自由集会 W10-3  (Workshop)

日本の北端と南端における植物の歴史的移住とその地理的背景
Historical migration of plants in the northmost and southmost areas of Japan and its geographic backgrounds

*中村剛(北海道大学)
*Koh NAKAMURA(Hokkaido Univ.)

本発表では,過去に東アジア大陸と接続した大陸島である琉球列島と北海道を主に扱う.
 大陸島の系統地理では,陸橋による分散と陸橋分断後の隔離が想定され,最も顕著な遺伝的分化を引き起こす障壁として最も成立が古い海峡が注目されてきた.琉球の植物でも新第三紀の陸橋とその分断の影響を検証する比較系統地理研究が行われてきたが,最古の海峡を挟んだ顕著な遺伝的分化は多数種の共通パタンとしては認められず,分化の有無と分散様式との間にも関係は認められない.一方で,琉球列島はほぼ南北に1000 km以上に伸び,緯度による気候勾配が顕著である.気候勾配に対し集団間で適応分化があれば,その間の分散が制限される.南北に配列する1000 km超級の列島は全球的にも少ない.琉球列島は,地理的遺伝構造に対する地史的な長期間隔離の効果と生理生態的な適応分化の効果を相対的に評価する場として,他に得難い島嶼といえる.千島列島も陸橋の分断,気候の緯度勾配という特徴を併せもつことから,同様の研究が期待される.
 大陸から遠く離れ地続きになったことがない海洋島では,同一種の自然な移入は多くの場合,一度のみである.一方で,日本の大陸島は東アジア大陸と接続したこと,或いは,近接することから,同一種の複数回の移入が考え得る.北海道は更新世氷期の海退時にはサハリン島を介して沿海地方と地続きであった.近年の研究で,東アジア大陸から沿海地方経由で北海道に移入した種や種複合体が,朝鮮半島経由で西日本にも移入した例が複数見出された.つまり,東アジア大陸と日本列島が成す円形の陸域分布により,同一種が南北2系統に分離され,日本列島にはその両端の最も分化した集団が見られる.日本列島は,同一種が複数回移入し得る島嶼として,環状に分布拡大した両端の集団が不和合性を示す輪状種の種分化研究や,保全における移植と異系交配弱勢の研究などに好適な場と考えられる.


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