| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


自由集会 W11-1  (Workshop)

オオオサムシ亜属における巨大交尾器の雌雄共進化に伴う遺伝子発現の変化
Coevolution of enlarged genitalia and changes of gene expression between males and females in Carabus (Ohomopterus) beetles.

*野村翔太, 曽田貞滋(京都大学)
*Shouta NOMURA, Teiji SOTA(Kyoto Univ.)

体内受精を行う動物の多くは種特異的な交尾器の形態を持っており、近縁種間において生殖隔離に役立っている。この種特異的な交尾器は、雌雄間で精巧に対応した形態を持つ場合がある。交尾器のような形質においては性選択や雌雄間での性的対立が生じるため、このような種では交尾器が雌雄それぞれにおいて別個に進化し、かつ対応した形態を持っていると考えられている。しかし、交尾器形態の進化に関わる遺伝・分子基盤を雌雄で比較し、本当に雌雄で別個の基盤から進化したのかを検証した研究はほとんど存在しない。
オオオサムシ亜属では、交尾器の一部であるオスの交尾片、メスの膣盲嚢形態に著しい種間差が存在する。交尾片と膣盲嚢は互いの形態が対応することで正常な交尾を担保するため、交尾器形態の進化は雌雄での対応を保持したまま起こったと推察されている。本研究では交尾器サイズが中程度のマヤサンオサムシ、小さなイワワキオサムシ、巨大な交尾器を持つドウキョウオサムシにおいて、交尾器サイズの違いに関わる遺伝子発現の違いを明らかにし、それを雌雄で比較した。交尾器の形成されるステージにおいて種間で発現量が異なる遺伝子群に対し、重み付き遺伝子共発現ネットワーク解析(WGCNA)やタンパク質間相互作用を調べることで、交尾器サイズの違いに関わる遺伝子群の中でも特に重要な役割を持つ遺伝子(ハブ遺伝子)をいくつか特定した。イワワキ・マヤサン間におけるハブ遺伝子の発現パターンは同種の雌雄間でも異なっており、雌雄で異なるメカニズムの変化が交尾器サイズの進化に関わったことが示唆された。一方、交尾器の巨大なドウキョウと近縁種間ではハブ遺伝子の発現パターンに雌雄差が少ないことが示された。このことは巨大な交尾器における進化は雌雄で類似した、もしくは同様のメカニズムの変化が関わっている可能性を示唆する。


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