| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
自由集会 W13-3 (Workshop)
IPBES(2019)は,現在,人間活動により動植物100万種が絶滅危機リスクにあると報告しており,生物多様性の包括的な保全が世界的な課題となっている。その課題解決のためには,実用的な生物多様性のモニタリング手法の確立とデータに基づく確かな保全策の実行が求められる。そうした背景のもと演者は,昨今のスマートフォン・タブレット端末の急速な普及を背景に,市民が撮影した位置情報付きの生物写真を収集する取り組みを実施してきた。生物写真を画像解析により自動で同定し,データベースとして蓄積することができれば,網羅的な生物分布の広域モニタリングが飛躍的に進展する可能性があると考えられる。
演者が運営するスマートフォンアプリ「Biome(バイオーム)」は,2019年4月に日本国内のみを対象に公開し,半年で約12万人が利用,30万件以上の投稿数が確認されている。「Biome」では,ゲーミフィケーションを導入することで,これまでの市民科学の主な対象であったセミプロ・自然愛好家だけではなく,今まで自然科学に縁のなかったユーザー層の参加を積極的に促し,市民科学の裾野を広げる工夫を取り入れている。さらに運営組織体を株式会社にすることで金銭的な持続性の担保を図りつつ,産官学民が連携して課題に取り組めるプラットフォーム形成を目指している。これまでの市民科学では多くの場合,科学者と市民の連携においてのみ解釈が行われてきたが,これからは企業,行政も巻き込んだ形での新しい進め方を議論していくことが重要なのではないだろうか。本発表では,アプリ「Biome」による市民参加型生物モニタリングの事例を紹介し,市民科学の課題や実用的な生物多様性モニタリングの在り方について考察を行う。