| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
自由集会 W15-4 (Workshop)
現在、人と自然の関わり合いが世界的に減少しており(「経験の消失」と呼ばれる)、生態系保全に対する大きな脅威として認識されている。経験の消失は、人々の自然や生態系に対するポジティブな感情(バイオフィリア:興味や親近感等)を減らすだけなく、ネガティブな感情(バイオフォビア:嫌悪や恐怖等)を増やすことが指摘されているが、後者に関する知見はほとんど無い。そこで本研究では、子供の昆虫類に対するバイオフォビア(以降、「虫嫌い」とする)の規定要因を探ることを目的とした。
2017年9月に栃木県内45ヶ所の公立小学校(5357人の小学5・6年生)を対象にアンケート調査を行った。アンケートでは、15種類の身近な昆虫類に対する四つの感情(怖い・気持ち悪い・嫌い・危ない)を聞き取るとともに、バイオフォビアに影響を与え得る要因(自然体験頻度・親の虫嫌いの程度・昆虫類に対する知識の程度・性別)も聞き取った。また、各学校周辺の都市化度をGISにより計測し、子供の生活圏内における自然度の指標とした。
解析の結果、子供の虫嫌いの程度は、自然体験頻度および昆虫類に対する知識の程度と負の関係であり、学校周辺の都市化度および親の虫嫌いの程度と正の関係となることが分かった。また、性別も子供の虫嫌いと強く関連しており、女子は男子と比べて著しく高い虫嫌いを示した。本研究の結果は、現在世界的に進んでいる経験の消失が社会のバイオフォビアを高める恐れがあることを示唆している。その一方で本研究結果は、生物多様性に対する適切な知識の提供(学校教育等)やコミュニケーションがバイオフォビアの蔓延を防ぐために重要な役割を持つことも示唆している。本講演ではこれらの知見を踏まえて、「経験の消失時代」に生き物嫌いの増加を防ぐために必要な対策を議論したい。