| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
自由集会 W17-1 (Workshop)
iLand(the individual-based forest landscape and disturbance model, http://iland.boku.ac.at/startpage)とは、樹木個体の誕生・成長・死亡を他個体との競争、土壌、気候、種子供給などを加味しながら計算する森林景観モデルである。2012年に発表された比較的新しいモデルであり、樹種毎に大量の生理パラメーターを必要とするかわりに、森林動態の詳細な予測を高解像度で実施できる。また、山火事や台風、病害虫などの自然撹乱を再現できるモジュールが充実しており、気候変動下の森林管理・保全を検討するための有効なツールの一つとして世界的な注目を集めている。
iLandは、1haごとに定義される環境条件の違いに対して、樹木個体1本ずつの成長量を1日毎に計算する。そのため、適用可能な空間範囲が小さく(1~数万ha)、国やバイオームを跨ぐシミュレーションは実施できない。また、再現できる樹木の形や高さ、生態系プロセス(ササによる更新阻害や地下部での競争など)には限界があるため、対象の森林や研究目的に応じてモデルの改良や樹木・環境パラメーターの調整が不可欠である。しかし、iLandはこれまでに定式化されてきた個葉から生態系にいたる大量のモデルを階層横断的に組み合わせているため、モデルの全容がつかみにくく、研究の一歩目のハードルが高い。そのため、オーストリア・カルカルペン国立公園、アメリカ・イエローストーン国立公園をはじめとする欧米諸国の森林での研究成果が十数例報告されているのみであり、アジアやアフリカでの適用は未だ行われていない。
本発表では、このハードルを多少なりとも低くするために、長所と短所に重点をおいたiLandの概要説明を行う。また、北海道・知床の森林における適用事例についても紹介する。これらを通じて、今後の森林生態系管理において、iLandの果たす役割について検討する。