| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


自由集会 W18-2  (Workshop)

高山帯チョウ類の調査からみた過去10年間のチョウ類群集とベニヒカゲ個体数の変動
Changes of betterfly community and Erebia neriene population during the past decade from the monitoring site 1000 alpine zone survey data

*中村寛志(ミヤマシジミ研究会)
*Hiroshi NAKAMURA(Res. Group of L. argyrognomon)

モニタリングサイト1000高山帯のチョウ類調査は,大雪山,北アルプス(蝶ヶ岳),南アルプス(北岳),白山の4か所で,2009年から2019年まで毎年実施されてきた.その目的は,環境変化が高山生態系に及ぼす影響の指標として,高山チョウの出現数の変化と低標高性の種の侵入と増減を把握することにある.そのため,高山チョウの指標種(クモマベニヒカゲとベニヒカゲ)を中心にその個体数の変動を記録するライントランセクト調査と,チョウ類全種を対象として低地性種の増加等について注目する定点調査の手法を用いた.ここでは主に北アルプス(蝶ヶ岳)と南アルプス(北岳)の調査データをもとに,(1)山岳域でのチョウ類調査の大きな課題である調査時の気候条件を補正する手法と,(2)高山帯のチョウ類群集の構造変化を的確に表す解析手法の試みにからみえてきた10年間のチョウ類群集の構造変化について考えてみる.(1)については,各調査年のベニヒカゲ個体数と照度との間に得られた回帰式から補正個体数を求めると,2009年からベニヒカゲの発生数はほぼ横ばいで変動がないと推測できた.しかし,季節変動も考慮に入れた解析手法を開発する必要性などの課題がまだ残されている. (2)ではモンキチョウやイチモンジセセリなど特定の低地性種の10年間の変化の分析に加えて,出現種を4つのグループ(高山チョウ,亜高山帯チョウ,低標高種,ヒルトップ種)に分類して分析を行った.高山のお花畑には調査当初と比較して2016年頃からクジャクチョウなどのシベリア型タテハチョウとヒメキマダラヒカゲなど山地性ジャノメチョウ種を含む亜高山帯・高原のチョウの割合が増えてきている傾向が見てとれた.今回示したようなチョウ類の群集構造の変化の兆候が,温暖化による影響かどうかは今後の検討すべき大きな課題である.


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