| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


自由集会 W19-1  (Workshop)

畔植物の多様性が高めるソバの送粉サービス:多様性保全と作物生産のwin-win関係
Diverse wild plants on ridges enhance pollination services to buckwheat: the win-win relationship between conserving biodiversity and crop production

*永野裕大(筑波大・院・保全生態), 宮下直(東大・農), 滝久智(森林総研), 横井智之(筑波大・院・保全生態)
*Yuta NAGANO(Univ. of Tsukuba), Tadashi MIYASHITA(The Univ. of Tokyo), Hisatomo TAKI(FFPRI), Tomoyuki YOKOI(Univ. of Tsukuba)

 農地景観は農地だけでなく森林や半自然草原、人工物などが複合的に混在することで形成され、陸域の多くを占めている。そのような農地景観は多種多様な動植物の生息地となっており、そこでの生物多様性の維持は全球的な多様性保全において重要である。しかし、近年の農薬使用や農業の集約化などによって節足動物や草原性草本植物などの多様性は急速に失われつつある。こうした背景から、農地の生物多様性を高める景観や管理が明らかになるつつある。一方で、生物多様性保全に配慮した農業はコストの増加や収量の低下を招く傾向が示されており、多くの場合、生物多様性保全と作物生産はトレードオフの関係にあるといえる。この関係を中立もしくは正の関係(win-win関係)に導くことは、農地の生物多様性を保全する上で極めて重要である。
 生物多様性が作物生産を支える典型的な例である送粉サービスは欧州や欧米を中心に多くの研究が行なわれており、農地管理や景観のもつ効果が明らかになりつつある。それらの効果の中で、作物周辺に在来の顕花植物を植えることで作物へ訪花する送粉者が増加することが知られている。海外に比べて日本の農地は面積が小さく、各農地の周りには草本植物が生息する畔が存在しており、それらの草本植物が同様の効果をもっている可能性がある。また、畔の草本植物の多様性は減少しつつあるが、適切な管理によっては在来草本植物の多様性が高まることが示唆されている。つまり、畔には送粉サービスと生物多様性の両方を促進する機能が隠されていると考えられる。本発表では畔管理と景観がソバの送粉サービスに与える効果を明らかにするとともに、畔管理によってもたらされる送粉サービスと生物多様性保全のwin-win関係について述べる。


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