| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


自由集会 W20-1  (Workshop)

これまでの研究者と社会との協働における成果と課題
Review of the collaboration between scientists and society: the fruits and challenges.

*赤石大輔, 法理樹里, 清水夏樹, 石原正恵, 徳地直子(京都大学)
*Daisuke AKAISHI, Juri HORI, Natsuki SHIMIZU, Masae ISHIHARA, Naoko TOKUCHI(Kyoto Univ.)

複雑で重層的な環境課題を解決と持続可能な社会への転換に向けて、様々な分野で研究者と社会との協働が求められている。国内の生態学分野では過疎高齢化や人口減少といった課題と連動した自然環境の劣化等をテーマに、各地で研究者と地域の協働取組が行われてきた。近年、それらをTransdisciplinary Science(超学際研究)という新しい学問分野として捉える様になり、2010年代には「地域環境学知」という概念がつくられた。佐藤(2018)は地域環境知を「地域の課題解決に向けて、意思決定とアクションの基盤となる総合的な知識基盤とし、科学知だけでなく地域の伝統知などが融合し絶えず変容するもの」と定義した。
事例調査をもとに研究者と地域の協働取組を類型化すると、事業の規模では(1)研究者個人・研究室(2)既存の学部・学科、(3)協働専門部局の設置(地域連携推進センターなど)に分類される。対応する地域も都道府県や市町村、町内会といった様々なスケールがある。
事業の実施期間では、予算終了と同時に終了する場合(1年〜5年)や、いくつかの予算をつなぎ合わせ継続するもの(5年〜10年)、また拠点を構えて長期的に実施しているものがある。
課題として、事業終了後に研究者と地域の関係がほとんどなくなる事例もあり、地域のステークホルダーの関係性が開始以前より悪化することさえある。地域にかかわる際には研究者の倫理が求められる。また運営体制では、協働の主体を担う大学側の人員は非常勤の若手研究者が多く、論文数以外の協働取組での成果の評価指標がなく、キャリアパスにつながらないという点である。COC事業等、大学の地域連携の主流化が進む中で、そのつなぎ役となるコーディネーターという役職が設置されてきている。生態学分野での地域協働においても、その取組が効率的かつ効果的に環境課題の解決に寄与するために、研究者と地域をつなぐコーディネーターの重要性を提案する。


日本生態学会