| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


自由集会 W20-2  (Workshop)

現地常駐の経験を大学教育と研究に活かす:能登地域での人材育成事業に携わって
From Noto's Satoyama to the chalkface: turning the experience of working at the regional revitalization program to University education and research

*小路晋作(新潟大学)
*Shinsaku KOJI(Niigata Univ.)

能登半島は自然と伝統文化に恵まれているが,人口減少と高齢化が進み,厳しい現実に直面している.金沢大学は2007年度から奥能登地域の自治体と連携して,地域資源を活かした地域再生を担う人材養成事業(能登里山里海SDGsマイスタープログラム)を実施してきた.様々な業種に携わる45歳以下の社会人がプログラムを受講し,2018年度までに183人が能登地域を中心に活躍している.
 講演者は,能登常駐の教員として事業開始から10年間,当プログラムの運営実務を担うとともに,農産物の産地化,里山の獣害対策,グリーンツーリズムなど,多岐にわたる課題研究の個別指導とサポートを行った.職務を通じ,(1)受講生たちによる課題解決型学習(PBL)に関わる機会を得たこと,(2) 30〜40歳代の社会人達を取り巻く状況や彼らの心境を見聞できたことは,大学生を対象とする現在の職務にも役立っている.一方,職務で得た人脈を活かして,(1)不耕起直播農法の導入による水田の生物多様性保全効果,(2)クヌギ植林地の管理施業に対する昆虫群集の応答など,地域の特徴的な農林業の取組に対し,その多面的機能を評価する研究を実施することができた.このような経験は,研究機関に所属してキャリアを積んだ場合には得られなかった財産と考えている.
 本発表で紹介する事例は,大学と地域との協働による社会貢献事業が主眼であり,このなかで教員の研究活動は,どちらかといえば個別的なサイドワークとして位置づけられている.こうした状況において,事業に携わる研究者が,職務と自らの研究活動をどのように相互発展させ,大学での教育研究にフィードバックさせ得るのかについて考えを述べたい.


日本生態学会