| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


自由集会 W20-3  (Workshop)

知識を得ることと意識を育むことのちがい:風蓮湖流域の住民アンケートで得た示唆
The difference between gaining knowledge and raising awareness: What is suggested by the residents questionnaire conducted in the Lake Furen project

*長坂晶子(道総研林業試験場)
*Akiko NAGASAKA(Hokkaido Research Organization)

風蓮湖流域は、酪農業・漁業いずれも地域の基幹産業として重要な役割を果たしているが、1980年代以降、草地拡大と乳牛飼養頭数の増大により河川水質が悪化し、上下流の対立構造が先鋭化してしまった。この20年ほどの間に点源負荷対策は進み、効果も現れつつあるが、汚染源の特定が困難な面源負荷(硝酸態窒素など)は未解決課題となっている。講演者は、面源負荷対策には“規制”よりも“価値創造型”アプローチが有効(飯島2008)と考え、流域住民が地域資源をいかに把握し価値あるものと認識しているかどうか、酪農家へのアンケート調査により実態把握を行った(有効回答数111件、回収率32%)。

 その結果、知識量が平均的な住民は陸上動物主体に回答していたが、知識量が中~多い住民は陸上動物に加え川の生きものを複数回答するとともに、自然体験の回答数も多いことが示され、「知識」と「自然体験」には強い結びつきがあることがわかった。一方で、「その自然を保全するために何が必要か」という問いに積極的に回答していたのは、必ずしも生きもの知識が豊富な住民ではなく、○○町住民であるかどうかが強い因子となっていた。風蓮湖流域の場合、保全意識が高い住民の割合が高かった自治体は、保全・環境学習などの活動を担うNPOが複数存在するとともに、それらの活動を自治体や農協など社会的認知度の高い組織が支援しており、(それほど関心が高くないような)住民層にも情報周知される機会・チャンネルが一定数存在することから、保全意識を高めるには知識や体験だけでは不十分で、住民自身による活動・行政施策などの存在が大きいと考えられた。

 以上は「知識は体験によって、保全意識は社会によって育まれる」ということに集約される。このことは研究者が地域といかに協働するかを検討する際もヒントになると考えられ、他事例と併せ、社会への波及効果、活動の持続性が期待できる方向性を議論できればと思う。


日本生態学会