| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
自由集会 W24-1 (Workshop)
本州中部山岳地域における高山植生の植生地理学的な研究には,高山植生の構成種の分布要素(植物の分布を類型化したもの)を比較した研究などがあるが,わずかな事例があるに過ぎない.そこで,本研究では多様な高山植生が成立する北アルプス後立山連峰北部において,広葉草原を含めた高山植生の分布要素の比較を行った.
2006年~2012年の7~10月にかけて行った現地調査で得られた植生調査資料を基に表操作を行い,植生単位の抽出を行った結果,25の群集・群落が抽出された.
それぞれの植生単位の分布要素は,風衝草原では周北極要素が多く,風衝矮性低木群落では周北極要素と東北アジア要素が多い傾向が見られた.岩隙植生は周北極要素であるアオチャセンシダに特徴づけられ,雪田植生では太平洋要素が多かった.高山荒原では,クモマグサ群集とミヤマタネツケバナ群集,イワベンケイ-シコタンソウ群集で周北極要素が多く,コマクサ-タカネスミレ群集とシロウマナズナ群落では東北アジア要素が多かった.また,ミヤマクワガタ-ウラジロタデ群集は太平洋要素が多く,クモマミミナグサ-コバノツメクサ群集では東アジア要素が多く,オヤマソバ群落では低山要素が多い傾向が見られた.広葉草原では,アシボソスゲ-イワオウギ群集,ミヤマイ群集で周北極要素が多く,クロトウヒレン-ミヤマシシウド群集では低山要素や太平洋要素が多い傾向が見られた.オニアザミ群落とカライトソウ-オオヒゲガリヤス群集では低山要素が多い傾向が見られ,オオヒゲナガカリヤスモドキ群集では低標高域の種が多い傾向が見られた.
このように,群落構成種の分布要素はクラスレベルまたは群集レベルで異なることが明らかになった.これは,後立山連峰の広葉草原を含めた高山植生の成立機構や分化を議論する際に,クラスレベルだけではなく,群集レベルでも気候変動などの地史的要因と植生変遷との関わりを考慮すべきであることを示唆している.