| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


自由集会 W26-2  (Workshop)

群集集合過程における分散能力の中立性
The neutrality of the dispersal ability in the community assembly process

*西澤啓太(横浜国立大学)
*Keita NISHIZAWA(Yokohama National University)

“生物群集の組成(多様性や種の分布、優先度)がどのようにして決定されるのか”。この問題は、群集生態学の根幹となるテーマであり、生態学における最古の疑問の一つである。古くは、種ごとの形態や性質の多様さによって群集組成や多種共存を説明できると考えられていた。この考え方は、現在では生態的特性に基づく決定論的(Deterministic)な群集集合と位置付けられている。これに対し、生態的な特性とは関係なく確率論的(Stochastic)に群集構造が決まるという考えも古くから存在し、決定論vs確率論という形で長く議論され続けている。
2001年にHubbell が提唱した統合中立論は、新たな帰無仮説として決定論vs確率論の研究を発展させた。中立論は、種間の生態的な特性に違いがない(中立: Ecologically Neutral)とした場合でも、種の空間分布を非常によく再現できるという確率論である。ここで重要なのが、生態的浮動(Ecological drift)と表現される、確率によって群集動態を理解する概念である。種間の性質に差が無く、確率論的に死亡が起きると仮定した場合、その空いた空間に移入できる確率が高いのは、近くに多く存在する種である。このような、種の特性を中立と仮定する考え方は、種の生態的特性に基づく決定論的集合に対する帰無仮説(ニッチ論 vs 中立論)として広く群集の集合則を解き明かす研究に応用され、群集構造決定における種の生態的な特徴の持つ重要性を再確認させた。
しかし一方で、ニッチ論 vs 中立論では分散能力については常に中立であることを仮定してるため、“分散能力の種間差”が群集構造に及ぼす影響については考慮できない。分散能力は種の分布拡大、存続に必要不可欠な特性であり、群集構造を決定する要因として非常に重要である。そこで、本発表では種ごとの環境応答(ニッチ)の中立性に加えて分散能力の中立性を改めて定義する。これにより、群集構造を決定する要因として分散能力を考慮することの可能性、意義を示していく。


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