| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


シンポジウム S01-2  (Presentation in Symposium)

マルチオミクス解析による農業生態系のデジタル化
Digitalizing agroecosystems using multiomics

*市橋泰範(理化学研究所)
*Yasunori ICHIHASHI(RIKEN)

私たちは農業現場でのマルチオミクス解析により農業生態系のデジタル化を試みた。その結果、農業生態系は作物が示す特定の形質(収量や品質など)と特定の微生物種や土壌成分で構成されたモジュールが複数組み合わさってネットワークを形成していることが明らかになった。また、有機農法の一つである太陽熱処理により植物根圏に特徴的な細菌叢が形成され、土壌中に蓄積する有機態窒素が作物の生育促進に関与していることが見いだされた。さらに、同定した土壌有機態窒素のうちアラニンとコリンが、窒素源および生理活性物質として作物生育を促進することを証明した。マルチオミクス解析による農業生態系のデジタル化は、篤農家の匠の技として伝承されていた有用な作物生産技術などを科学的に可視化する新しい手法であり、今後の農学分野における解析アプローチの主流となると期待できる。加えて本研究成果は、その複雑さゆえにこれまで十分に解析されていなかった、自然の物質循環である有機物と根圏細菌叢の相互作用がもたらす農作物への効果を強く示唆する。そのため本研究の発見により、有機物から分解する有機態窒素や根圏細菌を利用した新しい農法の技術が開発され、農業を工業的センスで推進する「農業環境エンジニアリング」への道が切り拓かれるものと期待できる。本研究成果から発展して、現在私たちが進めている国家プロジェクトの概要を紹介し、その取り組みから、農業における生物間相互作用学の未来について議論する。


日本生態学会