群集集合の研究では、種の移入や絶滅の順序・時期が群集の構造や機能に影響を与えることが古くから認識されてきた。これは、多種系生物群集の（組成の）多重安定性と関連する現象である。一方で、生態系における多重安定性の理論研究は、主に時間・空間的な環境勾配にわたる力学的安定性の変化に焦点を当て、低次元系を対象に研究が進められてきた。このため、多種系生物群集の多重安定性を研究するための理論的な枠組みは十分整備されていない。本講演では、これまでにも生態学において利用されている「最大エントロピー原理」に基づくモデルを、「エネルギーランドスケープ」という新しい視点から捉えることで、観測データとモデルによる多重安定性の体系的な研究が実現できることを示す。この手法の有効性を実証するために、個体群レベルのプロセスで駆動される群集集合動態をシミュレートし、手法の適用結果が様々な条件にロバストであることを示した。ここで紹介する手法は、多種系生物群集が示す多重安定性の研究を、理論・実証の緊密な連携のもと推進するための有効な手段となることが期待される。