| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


シンポジウム S01-5  (Presentation in Symposium)

RNA-seqで解明する生物間相互作用のダイナミクス
RNA-seq reveals dynamics of biological interactions

*本庄三恵(京都大学)
*Mie HONJO(Kyoto University)

次世代シーケンサーの発達により、野外の非モデル生物を扱う生態学においても遺伝子の多様性や発現量の情報を機能と結び付けて理解できるようになりつつある。特に、遺伝子機能の情報が明らかになっているモデル生物の近縁種を扱うことで、分子生物学の知見をより有効に活用できる。網羅的遺伝子発現解析手法であるRNA-seqは、生物の環境応答を全遺伝子について発現レベルで定量することが可能で、生物的・非生物的環境との相互作用を明らかにする生態学においても強力なツールとなる。
本発表では、モデル植物シロイヌナズナに近縁で多年生草本のハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri subsp. gemmifera)とそれに感染するウイルスの宿主―寄生者系のRNA-seqを用いた研究例を紹介する。兵庫県多可町のハクサンハタザオ集団において50%以上の感染率を示すカブモザイクウイルス(Turnip mosaic virus )の長期調査では、感染個体が3年以上にわたり同じ系譜のウイルスを保持したまま、クローン繁殖を介して生育し続けていることがウイルスゲノム配列解析とqPCRの結果から明らかになった。RNA-seqによる遺伝子発現解析からは、植物がウイルス感染に対し、季節や葉位によって異なる応答を行っていること、個体群動態に与えるウイルスの影響は年によって大きく異なることが明らかになった。例えば、比較的若い上位葉では、春と秋にのみ感染による発現変動が検出され、それぞれ異なる防御応答が見られた。一方、感染による高い死亡率の見られた時期においては、下位葉において病害応答遺伝子の発現が高まった一方、食害防御やデンプン分解などに関わる遺伝子の発現が低下し、遺伝子発現レベルにダメージが現れた。ウイルス感染に対し、より若い葉の生存率を上げるよう遺伝子発現が制御されていることが示唆される。


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