| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
シンポジウム S04-6 (Presentation in Symposium)
火山噴火は、生態系に壊滅的な被害をもたらすだけでなく、生態系を初期の遷移段階に戻す作用のある撹乱となっている。そのため、噴火の影響を受ける生態系は、噴火後の回復プロセスや陸域生態系に特有の遷移を理解するうえで、最適なフィールドといえる。三宅島は有史以来約20年おきに噴火しており、その生態系は噴火活動に伴う撹乱とその後に続く回復プロセスと切っても切れない関係にある。この特殊性から、三宅島では噴火による撹乱を起点とした遷移に伴う植生や鳥類等の変化に関する知見はある一方、生態系機能に関する研究はあまり行われてこなかった。発表者らは、2000年噴火後に形成された様々な地点を用いたchronosequenceアプローチによる噴火後の生態系機能、特に土壌圏での炭素および窒素循環機能の回復プロセス解明を目的とした研究を行っている。本研究では、2000年噴火で形成された裸地から被害が殆どなかった成熟林を含む計10地点において土壌呼吸速度(SR)と窒素無機化速度(NMR)の調査を行った。SRは、各調査区につき7〜9個のチャンバーを設置して2012年〜2013年(1回目)と2019年〜2020年(2回目)に毎月約1回、ソーダライムを用いたアルカリ吸収法で日積算SRを計測した。NMRは、2012〜2013年に各調査地につき10地点でイオン交換樹脂を用いたレジンコア法で推定した。SRは1、2回目共に調査区の植生量や植物の種多様性が増加するにつれて大きくなることが分かった。また1回目のSRと比べて2回目のSRが大きくなっており、これには、噴火被害が大きかった地域のSRの温度依存性が高くなったことによると考えられた。一方NMRは、窒素固定植物であるオオバヤシャブシの存在下でのみ顕著に大きくなった。以上から土壌圏の炭素循環機能は、植生量や種組成と共に回復する一方、窒素循環機能は、特定の機能を有する種の影響を強く受けつつ回復していく可能性が示唆された。