| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
シンポジウム S06-4 (Presentation in Symposium)
知床半島におけるヒグマの人間活動域への出没の多発(以下、大量出没)は、夏季のハイマツ・サケ科魚類の採食量が乏しく栄養状態の悪い年と一致していた(SY0025_3)。一方、大量出没の発生場所や時期は年によって傾向が異なる。例えば、2012年は羅臼側、2015年は斜里側の出没が多く、食物資源量が年だけでなく地域でも異なる可能性がある。また、2015年は秋季(10-11月)の出没も多く、これはミズナラ凶作との一致が考えられる。そこで本研究は、顕著な大量出没がみられ始めた2012年以降について、①食物資源量の年次変動、および②食物資源量の地域差を把握し、ヒグマの利用状況と比較検討した。
①食物資源の年次変動: ハイマツは一部地域で球果痕から過去の結実数を調べた。サケ科魚類は、林野庁(2019)によるカラフトマスの推定遡上数データ(2012、2013、2015、2017、2019年)を収集し、2020年には現地調査を実施した。加えて岩尾別サケマスふ化場におけるカラフトマスとシロザケの親魚捕獲データ(2012-2020年)を分析した。ミズナラは、林野庁が1989年から継続している結実調査のデータを分析した。これら食物資源の変動と、2013-2018年に採取された糞内容物の推定採食量割合(以下EDC)(白根 投稿中)とを比較した。
②食物資源量の地域差: 半島を6区画に区分した各地域のミズナラ結実数を双眼鏡カウント法によりカウントし(2019-2020年)、糞のEDC(2019年のみ)と比較した。データ解析は全て一般化線形モデルにより行った。
その結果、ハイマツの豊凶は今回の解析ではヒグマの利用状況と一致しなかったが、年によるサケ科魚類とミズナラの資源量変動とヒグマの利用の多寡は一致していた。ミズナラの豊凶は同一年でも地域間で差があった。また、地域ごとでは豊凶と利用の多寡が一致していた。これらの結果は、大量出没は食物資源の変動に影響を受けていること、出没は地域全体で一様ではなく、食物資源分布の偏りにより変化することを支持している。