| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


シンポジウム S06-5  (Presentation in Symposium)

エゾシカの個体群特性~個体数調整実施地域と非実施地域間の比較
Comparisons of population parameters for sika deer between the control-killed and the protected area

*宇野裕之(北海道立総合研究機構)
*Hiroyuki UNO(Hokkaido Research Organization)

知床半島におけるエゾシカ(Cervus nippon)の個体数は1980~1990年代に爆発的に増加し、自然植生の衰退および生態系の劣化が顕著になった(Kaji et al. 2010)。そのため2007年度から「知床半島エゾシカ保護管理計画」のゾーニングに基づく個体数調整が開始された。しかし、IUCN(国際自然保護連合)からは「人為的介入の根拠」と「その影響のモニタリング」が求められている。
 そこで本研究では、エゾシカ個体群の高密度維持機構の解明を目的として、個体数調整を実施している幌別・岩尾別(HB)と未実施のルシャ(RU)をモデル地区として設定し、2019年6~10月にメス成獣20頭、2020年6~12月に同様に21頭の生体捕獲および標識(VHF首輪)装着を行った。2020年12月までの追跡記録から、ProgramMARK_8.2のKaplan-Meier法を用いてメス成獣の生存率を推定した結果、HBで0.79±0.11(平均値±SE)、RUでは0.95±0.05であった。また、妊娠率はHBで81.3%、RUで95.2%と推定された。一方、2019年5月~2020年10月までロードカウントを実施し100メス当りの幼獣数を調査したところ、春季の幼獣割合(加入率)は、HBで17.1~19.2、RUで5.1~9.7と非常に低い値を示した。幼獣の死亡要因は、主にヒグマ(Ursus arctos)による捕食と冬季死亡であることが示唆された。各個体群特性が自然増加率に及ぼす影響について感度分析を行い、個体群の高密度維持機構について考察する。


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