リーフマイナーとは，主に幼虫期に寄主植物の葉などに潜る昆虫の一群である．葉に潜れる程に体サイズが小さく，一度潜り始めると，潜った葉かその近辺の葉にしかアクセスできない場合がほとんどのため，潜る葉が決められた時点で，幼虫期に得られる餌の資源量や適合性がほぼ決定されてしまう．また，潜ることは潜り跡を残すことにもつながり，天敵に対して自身の居場所への誘導路を作ることにもつながる．このように「潜る」という生活様式は体サイズ以外にも様々な制約をもたらすが，リーフマイナーの中には，潜り跡を改変することで天敵の攻撃を回避したり，潜っている植物部位の発生や代謝を自身に都合がいいように操作することで餌の質と量を改善しているものが知られている．本発表では，前者の例として平面的であった潜り跡を立体的に改造するリーフマイナーを，後者の例として幼虫期の特定の時点から急に虫こぶを誘導するリーフマイナーを，それぞれ取り上げる．

クルミホソガ Acrocercops transecta は，鱗翅目ホソガ科に属するリーフマイナーであり，幼虫が成長に応じて3パターンの潜り跡（マイン）を形成する．特に，4齢から終齢の5齢にかけて形成するマインでは，幼虫の絹糸を用いた加工により潜り跡が3次元的となり，マイン内にできた逃げ場所が寄生蜂からの回避に重要な役割を果たす，という例を紹介する．

タマホソガ Caloptilia cecidophora も，鱗翅目ホソガ科に属す小型蛾類であるが，1〜2齢時をリーフマイナーとして過ごしたあと，3齢から急激に虫こぶを誘導する．虫こぶが形成された葉と通常葉の代謝産物を網羅的に比較したところ，アルギニンなどのアミノ酸が有意に増加していたほか，寄主植物には本来ほとんど含まれていない化合物の増加も見られた．本種は，虫こぶ誘導種としては珍しく累代飼育が可能であり，室内飼育から明らかとなった虫こぶ誘導期特有の幼虫の行動や，植物操作能の遺伝基盤に迫るための試みも併せて紹介する．