| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
シンポジウム S10-2 (Presentation in Symposium)
送粉者がどの花を好むかは送粉者と植物の関係を左右する重要な形質である。植物−送粉者関係の進化機構を理解するためには、この訪花選好性がどのような遺伝/神経機構で制御されているかを理解することが不可欠である。カザリショウジョウバエは、ショウジョウバエでは珍しく訪花性を示し、花に依存した生活史を持つ。本種のメスは花に産卵し、幼虫は落下した花を食べて羽化する。本種は遺伝学や神経科学のモデル生物キイロショウジョウバエと近縁であり、ゲノムサイズが小さく、遺伝子組み換えも可能であることから、訪花選好性の遺伝/神経機構を明らかにする新たなモデルとなりうる。そこで本研究では、本種の野外における訪花選好性や繁殖選好性を調べた。沖縄本島における野外観察の結果、本種はノアサガオやゲットウ、テッポウユリへ頻繁に訪花することがわかった。一方、近傍に咲くベンガルヤハズカズラへの訪花は稀であった。訪花が頻繁に見られた3種の植物は、花の形態や色が大きく異なり、また系統も離れている。このことは、本種の訪花選好性が単純な遺伝/神経機構では説明できない可能性を示唆している。野外における繁殖選好性を定量したところ、ノアサガオとゲットウの花からは多くの成虫が羽化した一方で、テッポウユリやベンガルヤハズカズラの花からは成虫はほとんど羽化しなかった。また、花におけるメスの訪花回数と羽化個体数の関係は、植物種によって異なっていた。このことから、本種の生育率が花によって異なる可能性や、本種が産卵以外の目的で訪花している可能性が考えられる。前者の可能性を検討するために、本種の生育率を飼育環境下で比較したところ、本種は、ベンガルヤハズカズラに比べて、アサガオ類で高い生育率を示すことがわかった。このことから、本種の訪花選好性は仔の生存率と部分的に一致していることが示唆された。