| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
シンポジウム S10-4 (Presentation in Symposium)
サトイモ科では125属約3750種が知られ、仏炎苞に囲まれた肉穂花序を作る。ハチ(花粉や蜜が報酬)や甲虫(繁殖相手に出会う場所や熱エネルギーが報酬)、ハエ(産卵基質等が報酬)との送粉共生が見られる一方で、仏炎苞表面を滑りやすくする又は仏炎苞を物理的に開閉することで送粉者をトラップする騙し受粉も有名で、これらの送粉形質は科内で繰り返し進化してきたと推定されている。
サトイモ科植物は雌性先熟で、タロイモショウジョウバエ属(Colocasiomyia)と緊密な送粉共生を結ぶ熱帯のクワズイモ属の1種(Alocasia macrorrhizos)も開花初日の日の出前後に受粉し翌朝には花粉を放出して花が終わる。この24時間余りに見られる一連の floral behaviour(付属体の発熱・匂いの放出・仏炎苞の開張・雄花序の発熱・仏炎苞下部の閉鎖・花粉の放出等)が、送粉者を適切なタイミングで適切な場所(雌蘂から雄蘂)へと誘導することで高い送粉成功を可能にしている。また、仏炎苞が作り出す隙間は、内部の報酬にアクセスできる訪花者の体サイズを制限する「ふるい」の役割も果たしている。
このように、植物・昆虫・揮発性有機化合物・脂質・糖質・生態・分類・生化学など異なる分野の研究者の協働によって、異なる部位が異なるタイミングで異なる報酬や匂いを出していることが明らかになってきた。一方で、サトイモ科植物では開花時の発熱も複数回進化しているが、その生理的・進化的メカニズムや生態的意義が完全に解明されてはいない。また最近は、植物からのシグナルを受け取る送粉者側についても神経・生理・行動の観点から解析が進められている。これらの残された課題や最近の取組も紹介し、今後の研究の方向性について議論したい。