| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


シンポジウム S10-5  (Presentation in Symposium)

日本列島におけるカンアオイ節の適応放散と深まる擬態花の謎
Adaptive radiation of Asian Asarum and unsolved mysteries of the mimic flowers

*奥山雄大, 柿嶋聡(国立科学博物館)
*Yudai OKUYAMA, Satoshi KAKISHIMA(National Museum of Nat. & Sci.)

花とその花粉を媒介する昆虫 (送粉者) との関係は、相利共生の典型例としてよく挙げられるが、実際には送粉者を一方的に搾取するような系が多数知られている。中でも特筆すべき存在として昆虫が産卵場所などに集まる性質を利用し、その産卵場所を識別するための信号 (色、形、香りなどの組み合わせ) で昆虫を騙し、誘引する「擬態花」が知られている。このような擬態形質は驚くほど巧妙かつ精緻であるため、いかにして「ふつうの花」から擬態形質を獲得し、進化し得たのだろうか?という問いが自然と湧いてくるが、これまでに擬態花を特徴付ける機能的形質の生理・分子メカニズムについてはほとんど解明されていない。それゆえ擬態花がどのような条件で、いかにして進化し得たのかという問いを議論するための土台は著しく不足してきた。
ウマノスズクサ科カンアオイ属は日本列島で顕著な多様化を遂げた植物の一群だが、私たちはこれまでの研究の過程で、カンアオイ属では極めて近縁な種間でも擬態のモデルが頻繁に変化しているらしいことを見出した。このカンアオイ属の花が擬態しているモデルとしては腐肉、発酵果実、きのこ等が存在すると考えられ、例えば腐肉擬態花に特徴的な香り成分であるジメチルジスルフィドを放出する花は8回以上進化している。
本発表では、このような花の擬態の進化メカニズムに迫るべく現在進行中の研究の最新知見について紹介予定である。


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