| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


シンポジウム S13-1  (Presentation in Symposium)

植物の分子フェノロジー:トランスクリプトーム、エピジェネティクス、生物間相互作用
Plant molecular phenology: transcriptome, epigenetics, and biological interactions

*工藤洋(京都大学), 湯本原樹(京都大学), 杉阪次郎(京都大学), 伊藤佑(京都大学, ジョンイネスセンター), 村中智明(京都大学, 鹿児島大学), 西尾治幾(京都大学), 本庄三恵(京都大学)
*Hiroshi KUDOH(Kyoto University), Genki YUMOTO(Kyoto University), Jiro SUGISAKA(Kyoto University), Tasuku ITO(Kyoto University, Jhon Innes Center), Tomoaki MURANAKA(Kyoto University, Kagoshima University), Haruki NISHIO(Kyoto University), Mie HONJO(Kyoto University)

フェノロジーとは、季節に応じて見られる生物現象の研究であり、植物では開花・結実・展葉などが対象とされる。この季節応答を分子遺伝学的手法により研究するのが分子フェノロジーである。本講演では、アブラナ科シロイヌナズナ属の多年草ハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri subsp. gemmifera)の長期研究サイトで実施された代表的な分子フェノロジー研究を紹介する。遺伝子の発現を定量する定量PCRとRNA-Seq、遺伝子を含むゲノム領域のヒストン修飾状態を測定するChIP-qPCR(クロマチン免疫沈降+定量PCR)とChIP-Seqの手法が用いられた。その結果、複雑な自然環境から必要なシグナルのみを取り出して、遺伝子発現が調節される頑健な仕組みの一端が明らかとなった。例えば、植物は短期変動に惑わされることなく季節に応答するしくみを持つ必要があるが、花成抑制遺伝子FLCFLOWERING LOCUS C)が過去6週間の低温を記憶するかのように調節されることを明らかにした。その後、代表的なエピジェネティック修飾である抑制型ヒストン修飾H3K27me3(3番ヒストンタンパク質のテールにおける27番目アミノ酸リシンのメチル化)がこの長期の応答と関連することを示した。また、RNA-Seqにより、2年間にわたる毎週トランスクリプトームデータが得られ、発現が季節変動する遺伝子群を同定した。さらに、野外においてChIP-Seqを行うことを可能とし、複数のヒストン修飾について長期の時系列データを取得した。その結果、H3K27me3が日変動は小さく季節変動が大きいという特徴を持つことが明らかになった。ヒストン修飾に代表されるようなエピジェネティック制御が、変動環境下での遺伝子発現調整に重要であることを示す結果である。現在、植物の生活史や生物間相互作用の季節性に着目した研究を進めている。


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