| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


シンポジウム S13-2  (Presentation in Symposium)

昆虫の季節性休眠を調節する光周性分子神経機構の解析
Neurobiological mechanisms underlying photoperiodic control of seasonal diapause.

*志賀向子(大阪大学)
*Sakiko SHIGA(Osaka University)

多くの昆虫は「日長」あるいは「夜長」から季節を読み、生存に適した季節に成長し生殖するが、不適な季節にはそれらを一時停止した休眠に入る。このような性質は光周性と呼ばれる。光周性の日長測時には概日時計が関わるとされ、これまでに、概日時計(以下「時計」)遺伝子の突然変異体やノックダウン個体を用いた実験により、光周性に時計遺伝子が必要であることが多くの昆虫種で示されてきた。しかし、脳がどうやって日長を測り、成長や生殖を調節するかという光周性の神経機構については未だほとんどわかっていない。私たちは、光周性の分子神経機構に興味を持ち、大豆の害虫であるホソヘリカメムシRiptortus pedestrisを用いて研究を行っている。ホソヘリカメムシのメス成虫は長日条件では卵巣を発達させるが、短日条件では卵巣発達を抑制した休眠に入る。これまでに、RNA干渉によりperiodを含む複数の時計遺伝子の発現が光周性に必要であることが示された。しかし、時計遺伝子は中枢、末梢器官含め様々な細胞で発現することから、光周性中枢に時計遺伝子が関わることは証明されていない。本講演では、ホソヘリカメムシの脳内のPERIOD免疫陽性細胞を紹介し、これまでに知られている光周性神経経路との位置関係から光周性に関わる時計細胞について議論する。また、最近、ホソヘリカメムシの産卵を促進する脳間部神経分泌細胞の電気的活動に光周性がみられること、そして、この光周性にperiodの発現が必要であることがわかった。これらより、脳の細胞に発現する時計遺伝子が、細胞の電気的活動や卵巣の発達にみられる光周性の日長測定に関わるのではないかと考えている。今後、時計細胞を手掛かりに日長測定のメカニズムを探りたい。


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