| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


シンポジウム S13-3  (Presentation in Symposium)

サンゴ類の一斉産卵日予測モデル:概日時計と月齢シグナルの統合
Predicting synchronous spawning days in corals: Integration of circadian clock and lunar cue

*幸元秀行(九州大学), 林哲宏(中央研究院), 野澤洋耕(中央研究院), 佐竹暁子(九州大学)
*Hideyuki KOMOTO(Kyushu University), Che-Hung LIN(Academia Sinica), Yoko NOZAWA(Academia Sinica), Akiko SATAKE(Kyushu University)

 サンゴは同調的に配偶子を放出する一斉産卵を行う。産卵のタイミングは温度の影響を受け毎年変化するものの、月齢によって正確に制御されており決まった期間でのみ産卵が行われる。特にMerulinid coralsでは下弦の月付近の限られた期間で産卵が行われるのに対し、Acropora coralsでは満月から下弦の月まで幅広い期間で産卵が行われる。こうした月齢依存的な周期性と分類群に依存した産卵日の多様性がなぜ生じるかは未解明である。そこで本研究では、予測モデルの網羅的な分析によりその背景にあるメカニズムを検証した。
 産卵日の周期性について、月光は時計遺伝子発現に影響を与え、その発現パターンが月齢で異なることが報告されている。また24時間周期の自律的な概日リズムの位相のうち、どこに月光があたるかは月齢に従い忠実に変化する。そこで本研究では、外的符号モデルを応用し、サンゴは特定の位相の月光の有無を利用することで同調的な産卵をすると仮説を立てた。また、産卵日の分類群ごとの違いは月光の利用の仕方や温度影響性などが分類群ごとで異なることに起因すると仮説を立てた。これらの仮説をもとに様々な環境要因の組み込み方を検討した43560通りの一斉産卵日予測モデルを構築した。そして台湾の緑島における10年分の産卵データに全てのモデルをフィッティングさせ、予測に優れたモデルを選択した。
 その結果、Merulinid coralsでは日没数時間後の暗黒を、Acropora coralsでは深夜帯の月光を月齢の手がかりとして利用することで産卵日の周期性が生じることが示唆された。こうした特定の位相や月光の利用の仕方と温度影響性が分類群ごとで異なるため分類群に依存した産卵日の多様性が生じると示唆された。今後、本研究の結果をもとに検証実験を行うことで産卵日の謎が完全に解明されるかもしれない。


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