| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
シンポジウム S13-4 (Presentation in Symposium)
ツバメが夏に巣を作り、サケが秋に産卵するように、生物の多くは特定の季節に繁殖し、種や集団ごとに独自の繁殖期を持つ。このような季節性繁殖の多様化は、時に種分化の引き金となって、更なる形質の多様化を引き起こす。しかし、どのような遺伝的変異がこのような季節性繁殖の多様化を引き起こすのかはほとんど分かっていない。そこで私たちは、多様な季節性生活史を持つトゲウオ科魚類イトヨGasterosteus aculeatusをモデルに、この問題に取り組んでいる。祖先型である海型は回遊性で、春に川を遡上し、初夏の短い時期のみ繁殖する。一方、氷河期以降、淡水域に進出・適応した淡水型は、一生を淡水で過ごし、早春から初冬までの長い繁殖期を獲得している。これまでの研究から、祖先的な海型では、甲状腺刺激ホルモンTSHb2の発現が日長に依存して変動し、それらが繁殖と成長のオンオフを切り替えるスイッチとして機能する一方、派生的な淡水型では、TSHß2の日長応答性が失われ、長い繁殖期を実現していることが明らかになった。更に、日本と北米で独立に進化した淡水型では、異なる遺伝子座によってTSHb2の日長応答性が失われていた。つまり、生活史戦略の収斂進化が、同一の遺伝子の発現変化を引き起こす異なる原因変異によって実現されているのである。本発表では、これまで明らかになったイトヨの季節性繁殖における甲状腺刺激ホルモンTSHb2の多面的機能と、その日長応答性の収斂的喪失をもたらす分子遺伝基盤を紹介する。