| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


シンポジウム S14-3  (Presentation in Symposium)

マングローブ域におけるカニ類の棲み分けとセルロース分解能との関係
Habitat segregation of mangrove estuarine crabs in relation to their cellulose digestion abilities

*川井田俊(島根大学)
*Shun KAWAIDA(Shimane University)

マングローブ林とその周辺の干潟(以下,マングローブ域)には,多様なカニ類が生息することが知られている。マングローブ域のカニ類の多くは表層堆積物食者であり,主に底土表面の有機物を餌としている。この有機物の起源は主にマングローブなどの高等植物に由来するデトリタス(以下,植物デトリタス)であるが,これらは難分解性のセルロースを主成分とするため,カニ類が餌として利用することはほとんどないと言われてきた。しかし,これまでの研究により,温帯の塩性湿地ではセルロース分解酵素をもつカニ類が存在し,その分解能が高いカニ類は植物デトリタスの多い場所に生息することが明らかとなった。これは,カニ類の生息場所の棲み分けにセルロース分解能が影響を及ぼしていることを示唆しており,このような現象は多量の植物デトリタスが存在するマングローブ域でもみられる可能性がある。そこで本研究では,沖縄県西表島のマングローブ域に存在する3つの微細生息場所(砂干潟,泥干潟,林内)において,カニ類の棲み分けパターンを明らかにするとともに,各微細生息場所に出現する優占種の食性とセルロース分解能をそれぞれ炭素・窒素安定同位体比分析と還元糖比色定量法で調べ,棲み分けとの関係性を検討した。
その結果,林内にはフタバカクガニが優占して分布し,砂干潟と泥干潟にはミナミコメツキガニやミナミヒメシオマネキなどが多いことがわかった。フタバカクガニは高いセルロース分解能をもち,植物デトリタスを主に利用していたが,それ以外のカニ類は分解能が低く,セルロースをほとんど含まない底生微細藻類などを主に食べていた。また,林内は砂干潟と泥干潟に比べて底生微細藻類が少なく,植物デトリタスが多い環境であることもわかった。このことから,セルロース分解能の違いに起因する食性の違いが,マングローブ域のカニ類の棲み分けを左右する要因の1つであることが明らかとなった。


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