| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


シンポジウム S14-5  (Presentation in Symposium)

サンゴ礁域におけるサンゴ類の骨格形成と石灰質の底質
Skeletal formation of corals and calcareous sediments in coral reefs

*安元剛(北里大学)
*Ko YASUMOTO(Kitasato University)

陸域負荷がサンゴ礁生態系に及ぼす影響が懸念されているが,科学的な検証は十分になされておらず対策も遅れている。我々は,栄養塩がサンゴの生理機能に及ぼす影響を検証し,リン酸態リン(PO4-P)がCaCO3で構成されるサンゴ骨格に素早く吸着し,骨格形成を阻害することを報告した(Iijima et al. 2019)。PO4-PのCaCO3への高い吸着性と,熱帯亜熱帯域の底質が主に石灰質で構成されることを考慮すると,陸域由来のリン酸塩は沿岸域の底質に蓄積していると推察できる。我々はこれを蓄積型栄養塩と新たに定義し実態解明を進めている。今回は,沖縄本島沿岸域で採取した底質の蓄積型栄養塩が稚サンゴの骨格形成に及ぼす影響について検証した。また、底質から飼育海水に溶出してくる金属成分についても分析を行うとともに、主要な金属に関しては暴露実験を行った。
採取した底質とともに飼育したサンゴ稚ポリプ骨格は,底質と共在させていない個体と比較して骨格形成が阻害され,ポリプ全体を覆う外郭の形成が見られなかった。特に農地に近接する地域の沿岸域で採取した底質を使用した際に、稚サンゴの骨格形成は顕著に阻害された。その地域の底質からは高濃度のリン酸塩濃度が底質から溶出した。この結果から,底質にはリン酸塩が高濃度で蓄積しており,この蓄積型栄養塩は稚サンゴの骨格形成を顕著に妨げることが実証された。また、蓄積型栄養塩の濃度が高い地域の底質からは比較的高濃度の重金属が飼育海水に溶出された。特に、Mn、Cuなどは他の地域に比べて有意に高く、稚サンゴに急性毒性を示す値を超える地域も存在した。
表層海水からはPO4-Pが検出されない場所でも蓄積型栄養塩が高い地点は存在し、金属成分でも同様であった。底生生物に生育環境を評価するには底質の状態を調べることが重要である。特に、石灰岩島嶼域の底質は石灰質つまりCaCO3が主成分のため多くの物質を吸着すると推定され詳細な実態解明が必要である。


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