| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


シンポジウム S14-6  (Presentation in Symposium)

岩礁域における固着性ベントスの着底
Larval settlement of benthic invertebrates on rocky shores

*頼末武史(兵庫県立大学)
*Takefumi YORISUE(University of Hyogo)

岩礁域の特性として、基質である岩盤が硬く、安定して存在していることが挙げられる。このような物理的特性から、岩礁域にはフジツボ類やイガイ類などの固着性ベントスが優占する特徴的な生物群集が発達する。
固着性ベントスの幼生は、着底前に基質の物理・化学・生物的特性を探索し、生息場所として好適な環境であるか否かを判断することが知られている。この探索は、集団・群集動態を左右する重要な過程である。フジツボ類は、野外でのモニタリングや操作実験、室内での幼生飼育実験など、様々な研究手法が適用できることから、着底機構の研究が比較的盛んに行われてきた。本生物群では1950年代から同種個体から分泌される化学物質が幼生の着底を誘起することが報告されはじめ、現在までに2つのタンパク質性着底フェロモンが単離精製されている。そのうちの1つ、Settlement Inducing Protein Complex (SIPC)と呼ばれる着底フェロモンは、フジツボの殻や基質上に吸着し、基質上で働くと考えられている。このSIPCの着底誘起活性には濃度依存性があり、分泌量が高すぎると着底が忌避される。さらに、SIPCは捕食者の捕食行動を誘起するという、異なる機能を有していることも報告されている。このようにSIPCひとつ取っても、分泌物が生物間相互作用に複雑に影響し、着底プロセスにフィードバックしていることが想像される。フジツボ類の着底には捕食者や海藻類から分泌される化学物質なども影響しているが、複数の物質がどのように作用し、幼生の着底に影響を与えているのかはほとんどわかっていない。また、フジツボの殻には蛍光タンパク質が存在し、視覚的にも幼生の着底を誘起していることもわかってきている。発表では、基質上に存在する様々な着底シグナル/cueを幼生がどのように認知し着底場所を選択しているのか、についてこれまでの知見をまとめ、課題について議論したい。


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