| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
シンポジウム S14-7 (Presentation in Symposium)
底質と固着性生物の関係は陸域と海洋とで大きく異なっている。陸上の大型の固着性生物が体を固定する主要な底質は土壌だが、海洋では土壌に相当する砂泥底よりも、岩礁など固い基質を付着基盤とする固着性生物の方が多様である。これらの陸域と海洋の相違は、それぞれ空中と海中という流体抵抗の大きく異なる生息環境の特性を反映していると考えられる。流体抵抗の低い空中では、土壌は速やかに堆積することで空中と底質が空間的に明瞭に分離される。一方、海洋では砂利など重い粒子は海底へ堆積しやすく砂泥底を形成するものの、海水は流体抵抗が大きいうえに流動するため、砂泥は攪拌されやすく、固着性生物が体を固定する基質としては利用しにくい。また底質成分のうちデトリタスなど軽い粒子ほど流動によって容易に海中に再懸濁するため、これらを摂食する懸濁物食者が海中や底質上に発達することが可能となる。すなわち、海洋では水塊が緩い土壌生態系を構成しているとも言える。これらの懸濁するデトリタスの密度は季節や海域、さらに周囲の生物群集によっても変動する。例えば、繁茂期の大型海藻藻場では藻体の隙間に高密度に保持されているが、衰退した藻場では藻体や海底に高密度に堆積する現象が見られている。これらの懸濁・堆積物は周囲の海洋環境だけでなく、生物群集の摂食活動を反映すると期待できる。例えば、熱帯化する温帯性藻場では、ウニや魚類などの植食動物に摂食された海藻が大量のデトリタスへと変換され堆積することが示されている。一方、熱帯化に伴い造礁サンゴ群集が増加しつつあるが、亜熱帯域の造礁サンゴ群集内では懸濁・堆積物の密度は低く抑えられているため、熱帯化によるサンゴ群集の増加に伴い懸濁・堆積環境が変化するとも予想される。本講演では、海底底質の懸濁・堆積物構成について、周囲の生物群集の特性・変化傾向を反映する指標としての利用可能性を考察する。