| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
シンポジウム S15-5 (Presentation in Symposium)
近年、多様な野生訪花昆虫による農作物等への送粉貢献が明らかになっているが、その減少が広く報告されている。日本でも一部の野生送粉昆虫の減少が懸念され、送粉依存度が高い自家不和合性作物や雌雄異花作物では、人工授粉や飼養送粉昆虫導入がなされている。作物の野生送粉昆虫の保全・活用のためには、まず作物の野生訪花者群集とその変動実態を明らかにする必要がある。しかし現在の日本の作物の野生訪花者相はほとんどわかっていない。そこで、送粉者を必要とする日本の主要果樹、リンゴ、ナシ、カキにおいて、訪花昆虫群集組成とその変動、および共変要因を明らかにするため、日本各地の20果樹園にて1-3年間訪花昆虫を網羅的に調査した。いずれの園も訪花者はハナバチ類、ハエ目、コウチュウ目で9割以上を占め、リンゴとナシで54科、カキで27科が見られた。訪花者の科数、Shannonの多様度、Pielouの均等度、群集間のBray-Curtisの非類似度、訪花者数に対する調査日の最高気温、平均風速、年度、地理的位置、飼養昆虫放飼の有無の影響を検討した結果、科数、多様度、均等度は飼養訪花昆虫の放飼がある園で低く、風速や最高気温によって変動した。訪花者群集間の非類似度は、果樹種と最高気温の差が大きいと高かった。環境要因に対する訪花数の変動パターンは果樹種間で異なり、訪花昆虫分類群ごとに異なる樹種、飼養訪花昆虫、環境要因への応答パターンと、開花期の環境条件を反映した。野生訪花昆虫群集は、作物と訪花昆虫のフェノロジー、訪花昆虫の環境等要因への応答性により形成されることが示唆された。野生訪花昆虫の多様性等に対してみられた飼養放飼昆虫の負の影響については今後慎重に検討する必要がある。