| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


シンポジウム S15-7  (Presentation in Symposium)

訪花者にみられる多次元の応答多様性:送粉サービスのレジリエンスへの含意
Multi-dimensional response diversity in pollinators: implications to the resilience of pollination services

*宮下直, 林将太, 夏目佳枝(東大・農)
*Tadashi MIYASHITA, Shouta HAYASHI, Kae NATSUME(The Univ. of Tokyo)

土地改変や気候変動が顕在化する現在、送粉サービスの持続性は食料の安定供給に欠かせない重要課題となっている。送粉サービスは、様々な生態系サービスのなかでも特に多様な生物種が必要とされており、BEF(biodiversity and ecosystem functioning)研究の好材料であるとともに、生物多様性の価値を社会に広く認知させるうえでも高い訴求力をもっている。本講演では、異型花柱性で様々な昆虫が訪れるソバを対象に、環境変動に対する応答多様性(response diversity)を、複数の気象要因(時間軸)と景観構造(空間軸)から評価し、「多次元の応答多様性」に注目することの重要性を提起する。
調査は長野県飯島町の多数のソバ畑を対象に、秋ソバの開花時期を通して昆虫類の訪花調査を行った。また、花序をメッシュの粗い袋で覆う野外実験により、大型昆虫と小型昆虫の結実率に対する貢献度合いも評価した。その結果、気温、日照時間、風速に対する昆虫類の応答は分類群や体サイズにより明らかに異なること、その応答パターン自体も多様であること、さらに周辺の土地利用に対する応答も分類群により異なることが分かった。こうした「応答多様性の多様性」の存在は、時空間的に変化する環境条件下で送粉サービスを持続的に維持するためには、従来考えられてきたよりはるかに多様な訪花者が必要であることを示唆している。今後、同様な観点からの研究をマクロスケールで展開することで、訪花者の種プールの違い、広域での土地利用パターンの違い、気象変数のレンジの違いなどの影響も評価でき、生物種と生態系サービスの関係性の包括的な理解につながることが期待される。


日本生態学会