| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


シンポジウム S16-4  (Presentation in Symposium)

生物多様性地域戦略による地域レベルの科学-政策連携の推進
Role of LBSAPs to bridge local biodiversity knowledge and policies.

*高橋康夫(地球環境戦略研究機関)
*Yasuo TAKAHASHI(IGES)

本講演では、生物多様性地域戦略策定済みの70市区町村へのアンケート調査と佐渡島における事例研究の結果を紹介し、地域戦略の役割について考察する。まず、アンケート調査結果をもとに、地域戦略策定過程で自治体が行った活動が地域戦略に必要な知識の蓄積や知識の地域戦略への活用にどう影響するのかを分析した結果、行政、有識者や企業などを含む分野横断的な策定委員会の有効性が確認された。特に、策定委員会への農業、教育、インフラサービスなど、自治体の複数部門の参加が、地域戦略に多様な生態系サービスを幅広く取り入れるうえで有効なことが分かり、各部門への生物多様性の主流化に向けた示唆が得られた。次に、佐渡島でトキの野生復帰を支えた「朱鷺と暮らす郷づくり認証米」制度の発達と普及の過程をトランスフォーマティブ・チェンジの理論枠組に基づいて分析した。その結果、(1)幅広い主体が共有する目標、(2)農家の先駆的取組、(3)地域内外の主体間のネットワーク、(4)自治体のリーダーシップ、(5)災害と「平成の大合併」といった外的要因の5つがこの過程に大きく寄与したことが明らかになった。一方、認証米栽培の普及は2013年以降停滞しており、今後さらなる展開に向けて(1)認証基準の改善、(2)認証米の戦略的な販売、(3)農家への直接支払の効率化、及び(4)人口政策との一体的な取組の必要性が示唆された。その上で、これらの多岐にわたる分野をつなぐ関係主体の継続的な取組と学習を促すために地域戦略が果たしうる役割に言及した。以上2つの研究成果から、地域戦略が、行政文書としての存在はもとより、その策定と実施の過程が自治体内の複数の部門間、ならびに有識者、民間企業及び市民団体との間の学び合いや協働を促す、いわば地域版科学-政策プラットフォームの役割をもつと結論づけた。今後、ポスト2020年生物多様性枠組と新国家戦略の下、地域戦略のこのような役割がさらに重要になるであろう。


日本生態学会