| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
シンポジウム S17-5 (Presentation in Symposium)
我々は魚類のホンソメワケベラが鏡像自己認知できることを2019年に報告した。ヒトは自分の顔で鏡の姿を自分だと認識する。そこで、この魚がヒトと同様なやり方で自己鏡像を認識するのか、それとも魚独自の方法で認識するのかを調べた。驚くべきことに、我々と同様に自分の顔を認識し、自己の顔に基づいて自分だと認識していた。社会性魚類の多くは、相手個体の顔を覚えることで他者認識を行っているが、魚でもヒトでも他者認識や自己認識に顔認知が重要な役割を果たしていた。つまり、社会的認知のメカニズムはヒトと魚で共通していることになる。
では、鏡像自己認知はどのような過程を経てなされるのだろうか?ホンソメワケベラでは、
• 最初、鏡像を他個体だと勘違いし、攻撃や社会的行動をとる。
• その後、相手の動きの不自然さに「戸惑い」を感じ始め、そこで
• 相手が自分かどうかを確かめ始め、ある時点で自分だと気づき、
4)それ以降、鏡像は自分だと認識できるようになる、
との過程を経ていた。この時系列の流れは本種だけでなく、チンパンジー、ゾウ、カササギでも同様に観察され、自己認識の過程も脊椎動物で共通していそうである。この鏡像自己認識を含め、高次の認知様式の基盤も、魚類から霊長類まで脊椎動物では相同である、との仮説を提唱したい。
魚類以外の水圏動物で、高い認知能力が知られるのが甲殻類と頭足類である。このうち、アオリイカでは鏡像自己認知が報告されている。興味深いのは、このイカは、上記1)〜3)の過程を経ずに、いきなり鏡像自己認知ができることである。未知の他個体に対しては社会行動をとるにもかかわらず、である。このように、頭足類の高次の社会的認識様式は、脊椎動物の場合とは根本的に異なる可能性がある。高次社会的認知について、動物門内の相同性、動物門間の相似性に関する仮説についても「認知進化生態学」の視点から議論したい。