| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


自由集会 W01-1  (Workshop)

小笠原と沖縄の送粉系 -ネットワーク,ニッチ,外来種-
Pollination systems in Ogasawara and Okinawa -network, niche and alien species-

*安部哲人(森林総合研究所)
*Tetsuto ABE(FFPRI)

島では生物の出入りが制限されることから独自の進化を遂げた種が多く,自然環境が比較的維持された島は保全価値が高い.一方で,島で進化した種は土地利用や外来種などの人為的攪乱に弱いため,島の生態系は保全の優先順位が高い.にもかかわらず,島の送粉系についてはこれまで注目度が高いとはいえなかった.本講演では日本の代表的な亜熱帯島嶼である小笠原と沖縄(やんばる)で送粉系の現状を紹介し,保全に関する問題点を提起する.送粉者と植物間の関係を表すネットワーク構造について,小笠原はもともと構成種数が少ない上に主要島は外来種グリーンアノールの影響を大きく受けてきたため更に減少しており,無人島と比べてnetwork connectanceも低くなっていた.一方で,沖縄は送粉者の種数が多いものの,伐採跡や市街地など土地利用の効果が強い場所では外来種が優占しており,衰退・変質が確認された.送粉者相は小笠原ではハナバチ類の占める割合が高い一方で沖縄ではハナバチ類だけでなくチョウ類の訪花頻度が高かった.一方で,いずれの島でもハナバチ類やチョウ類といった主要送粉者のシンドロームに該当しない特殊形質を持つ花が見られた.このことは特殊化した送粉者の存在を示唆しており,送粉者相の多様性を保全することが重要と考えられた.また,両地域とも外来植物がネットワークに組み込まれており,送粉者でも外来種セイヨウミツバチの占めるウェートが高かった.小笠原は世界自然遺産であり,沖縄やんばるも候補地であるが,両地域とも養蜂が行われており,生態系保全の観点から大きな問題になると思われる.特に小笠原ではグリーンアノールの捕食により在来送粉者が大きく衰退していることから,その取扱いには注意を要すると考えられた.


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