ヒメシュモクバエSphyracephala detrahens（Diptera: Diopsidae）は，日本の南西諸島にも生息するシュモクバエの仲間である．眼柄が雌雄ともに短いためか，本種のように祖先的なグループに属するシュモクバエはこれまであまり研究されてこなかった．しかしながら，眼柄と眼柄を用いた行動の進化的起源を明らかにする上では，Sphyracephalaに属する種についての研究を欠かすことはできない．そこでまず，ヒメシュモクバエの形態について性差を調べたところ，体サイズや眼柄のアロメトリーに性差は見られないことが分かった．本種は，雌雄ともに眼柄を突き合わせて闘争を行う．両性の闘争行動について調べると，体サイズや眼柄の大きさに差があるペア間では，より大きい個体の勝率が高かった．餌上で滞在する位置や時間，対戦者同士の位置関係には勝者と敗者とで違いが見られたことから，サイズ差に加えて，空間利用の違いによっても勝者と敗者を区別できる可能性がある．このような闘争におけるポジション取りは，配偶者の獲得を優位に進める上でも重要であるかもしれない．