| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
自由集会 W03-2 (Workshop)
父親のみが仔育てを行う行動は「父育」と呼ばれ、多様な動物界でも極めて希少な行動である。では、なぜ、いくつかの種群で父育が進化したのか? その背景として、「父育は世話のコストが掛かる一方で、確実に自身の仔を育てることで適応度が高まる」というトレードオフの関係が考えられてきた。つまり、父育行動の進化は、父性 (父親と仔の血縁度) が高いことが大前提である。しかし、父育を行うことで知られる昆虫のコオイムシ類ではこの定説に反して父性が低いことが明らかになってきた。父性が低く、さらに卵塊を背負うコストがある状況であれば、父育 (卵塊保護) のコストを回避しつつも、自身の精子で授精した卵を他のオス個体に世話させるような行動 (いわば、「オスの托卵」行動) が進化しても不思議ではない。また、コオイムシ類は交尾後のメスがオスの背に産卵し、オスが卵塊を背負いながら卵の世話 (父育) を行う。したがって、メスの産卵場所がオスの背に限られるため、産卵場所を巡るメス間の競争が生じている可能性も考えられる。しかし、このような観点からコオイムシ類の父育行動を追究した研究はない。そこで本研究は、個体識別した20ペアのコオイムシを1ヶ月間、集団飼育・自由交配させ、孵化した幼虫と成虫の親子関係をSSRマーカー・17座を用いて推定した。その結果、コオイムシでは、①乱婚状態が著しく、父性が約65%で、②自身では卵保護行動をせずに仔を残すオス (やり逃げオス) が存在することが明らかとなった。さらに、交配実験の様子をタイムラプス撮影した結果、オス1個体に対して複数個体のメスが群がって交配しようとする様子が確認され、③メス間の産卵場所 (オスの背) を巡る競争が示唆された。本研究の結果は、コオイムシ類のユニークな繁殖システムが「オス側の事情」と「メス側の事情」の双方が複雑に絡み合いながら維持されていることを示すものである。