| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
自由集会 W03-3 (Workshop)
体内受精を行う動物の多くは種特異的な交尾器の形態を持ち、同時に雌雄間で精巧に対応した形態を持つ場合がある。この雌雄間の形態的対応には性間で協調的な選択が働いているが、交尾器のような性的形質には性間の対応に反する性選択や性的対立も影響する。また、雌雄の交尾器は発生上、完全に相同ではない。そのため、雌雄の交尾器が雌雄それぞれ異なる選択圧を受けながら対応した形態を維持して共進化する仕組みは進化生物学的に興味深い。本研究では、雌雄交尾器の著しい共進化を示すオオオサムシ亜属の近縁種間・性間のトランスクリプトーム比較を通して、雌雄交尾器形態の協調的共進化を促進するような遺伝子ネットワークと遺伝子発現制御に性間の共通性があるのかについて検証を行った。
オオオサムシ亜属の交尾器では、オスの交尾片とメスの膣盲嚢形態に著しい種間差が存在する。交尾片と膣盲嚢は互いの形態が対応することで正常な交尾を担保するため、交尾器形態の進化は雌雄での対応を保持したまま起こったと推察されている。本研究では交尾器サイズが特に巨大なドウキョウオサムシとその近縁種間において、オス交尾片、メス膣盲嚢の巨大化に関わる遺伝子発現の違いを明らかにし、雌雄で比較した。交尾器の形成されるステージにおいて種間で発現量が異なる遺伝子群に対し、重み付き遺伝子共発現ネットワーク解析(WGCNA)を雌雄それぞれに適用し、交尾器の巨大化に関わる遺伝子群と、その中でも特に重要な役割を持つ遺伝子(ハブ遺伝子)を特定した。オス交尾片、メス膣盲嚢の巨大化に関わる遺伝子ネットワークは雌雄で共通しており、ハブ遺伝子の発現パターンは雌雄差が少ないことが示された。これらの結果から交尾器の巨大化は性差の少ない遺伝子ネットワークにより制御されたことが示され、巨大な交尾器における進化は雌雄で類似した、もしくは同様のメカニズムの変化が関わっている可能性を示唆している。