| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


自由集会 W06-2  (Workshop)

マングローブ植物呼吸根の通気組織を介したガス輸送は低窒素環境への適応なのか?
Aeration system through mangrove aerial roots: is it adaptation to nitrogen deficiency?

*井上智美(国環研), 高津文人(国環研), 下野綾子(東邦大学)
*Tomomi INOUE(NIES), Ayato KOHZU(NIES), Ayako SHIMONO(Toho University)

 マングローブ植物が生育する干潟の土壌は、潮汐によってリターが海へ流出するため、窒素濃度が低くなりやすい。このような場所で大径木に成長するマングローブ植物はどのように窒素を獲得しているのだろうか?
 マングローブ植物の根近傍土壌では高い窒素固定活性が検出されることから、マングローブ植物と窒素固定バクテリアとの間に相利共生関係があることが推察される。ただし、干潟の土壌は満潮時に冠水するため、窒素固定バクテリアへの窒素供給速度は、水中を介することで極端に制限されてしまう。そこで本課題ではマングローブ植物に特徴的な地上根(呼吸根)に着目した。マングローブ植物にみられる地上根の内部はスポンジ状の空隙(通気組織)になっていて、大気と土中を気相で繋ぐ構造をしている。通気組織は、酸素欠乏で誘導形成することから、冠水を繰り返す嫌気土壌に対応した「酸素供給システム」であると考えられているが、通気組織に供給される空気の8割が窒素ガスであることを考慮すると、窒素固定バクテリアへの窒素供給経路にもなっている可能性がある。
 野外に生育しているマングローブ植物ヤエヤマヒルギ(ヒルギ科)とヒルギダマシ(クマツヅラ科)の地上根通気組織のガス拡散コンダクタンスは、土壌に比べて20-27倍高かった。また地上根に取り付けたチャンバーに15N2を施与し、数時間後に土の中の根系を採集して分析したところ、種によってパターンが異なっているものの、15N/14N比の顕著な増加が見られた。15N/14N比の増加は、主に側根や通気組織の部位に見られ、この傾向はアセチレン還元法で計測した窒素固定活性の結果とも一致していた。以上のことから、大気中の窒素ガスが地上根の通気組織内にとりこまれて土中の根へ拡散し、窒素固定バクテリアに固定されており、この現象が科をまたいだマングローブ植物に見られることが明らかとなった。


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