| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


自由集会 W12-1  (Workshop)

産地試験地を用いたスギの機能形質の遺伝解析
Association genetics of ecological functional traits in Cryptomeria japonica.

*内山憲太郎(森林総合研究所), 韓慶民(森林総合研究所), 楠本倫久(森林総合研究所), 中尾勝洋(森林総合研究所), 上野真義(森林総合研究所), 津村義彦(筑波大学)
*Kentaro UCHIYAMA(FFPRI), Qingmin HAN(FFPRI), Norihisa KUSUMOTO(FFPRI), Katsuhiro NAKAO(FFPRI), Saneyoshi UENO(FFPRI), Yoshihiko TSUMURA(Tsukuba Univ.)

現在は日本と中国の一部地域にのみ自然分布するスギであるが、かつてのスギ属はユーラシア大陸に広く分布していたことがわかっている。スギの直接の祖先種は少なくとも500万年前には日本列島に存在しており、その後の氷期と間氷期サイクルの間、分布を大きく変化させてきたと考えられる。現在のスギ天然林の遺伝解析からは、4つの遺伝的系統(北東北日本海側、日本海側、太平洋側、屋久島)の存在が指摘されている。DNAマーカーを用いたコアレセント解析によると、これらの遺伝的系統は過去数万〜数十万年前の分岐によって形作られたと推定されている。また、化石花粉および生態ニッチモデリングによると、氷期にはスギの分布の中心は西南日本の日本海側にあり、それ以外の北東北、太平洋側、屋久島などの地域では、集団サイズが大きく縮小していたと考えられている。これらのことより、現在の遺伝的系統の形成には、氷期の分布縮小による集団の隔離が大きな影響を与えていると予想された。他方、これらの系統は気候的にも大きく異なる地域に分布しており、長い年月の間に、それぞれの環境から異なる自然選択圧を受けてきたと考えられる。広域に分布する植物種では、しばしば自生環境への遺伝的適応を示す局所適応が認められる。スギにおいても産地試験地の解析を通して、局所適応が検出されている。しかしながら、スギのどのような形質に自然選択が働いているかはよくわかっていない。そこで、スギ天然林の挿し木苗からなる産地試験地において、冬期の強光阻害の防御物質であるカロテノイドと、生物的ストレスの防御物質であるテルペノイドについて、その組成と量を測定し、ゲノムワイドな遺伝情報との関連解析を行った。その結果、いずれの物質もその組成や量には地理的傾向が認められ、そのうちの一部の物質と強い相関のある遺伝子座も複数検出された。


日本生態学会