| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
自由集会 W13-1 (Workshop)
近年の人工知能や遺伝子解析技術の進歩により、画像診断やDNAバーコーディングなどを用いた同定が実用的になりつつある。従来の同定には、高度な専門知識や経験に基づく分類学的な手法が要求されるが、これらの新技術を用いれば、専門家でなくとも簡便に同定が可能となると期待されている。その一方で、これらの技術は、その基盤となる参照情報の規模と精度に強く依存するため、正確な分類情報に紐づけられた参照情報の整備が喫緊の課題となっており、分類学の重要性も高まっている。例えば、DNAバーコーディングを用いた同定には、比較対象となる種の情報がDNAライブラリーに登録されている必要があるが、昆虫類では、その種数の多さから情報整備が大幅に遅れており、特に日本産昆虫では多くの情報が未整備である。そのため、DNAバーコーディングによる同定を試みても結果を得られなかったり、見当外れな結果が返ってくることも少なくない。また、誤同定に基づく情報もライブラリー上に散見されるため、参照情報がそもそも誤っている可能性もあり、結果の妥当性について分類学的な検証が必要となる。また、こうした課題の解決のためにも早急な情報整備が望まれるが、これはまさに分類学の役割である。このように新技術活用には分類学の研究が不可欠であるが、時には職人技とも評されるその研究手法は、分類学者以外にはあまり身近ではないようである。そこで本講演では、昆虫類を材料とした分類学的研究手法を簡単に紹介するとともに、新技術における昆虫分類学の役割や今後の発展について検討していきたい。