| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


自由集会 W17-1  (Workshop)

縞枯れではどうやって風が針葉樹を衰退させるのか?
Critical effect of prominent wind on decline of subalpine conifers in wave regeneration

*種子田春彦(東京大学・理), 小笠真由美(森林総研関西), 矢崎健一(森林総研北海道), 丸太恵美子(神奈川大・理)
*Haruhiko TANEDA(University of Tokyo), Mayumi OGASA(Kansai Res. Ctr., FFPRI), Kenichi YAZAKI(Hokkairo Res. Ctr., FFPRI), Emiko MARUTA(Kanagawa University)

縞枯れにおいて、枯死帯で成木が衰退・枯死を起こす生理学的なメカニズムは明らかになっていない。過去の研究から冬季の強風で雪氷が吹き付けられることにより起こる針葉の傷害が起き、この傷害が針葉での冬季の乾燥ストレスを促進し針葉や枝の枯死を引き起こすことが示唆されている。本研究では、この仮説を検証するために、風背地に分布する縞枯れの主要構成種であるシラビソ(Abies veitchii)の6年生の枝を12月下旬に採取して風衝地に約30日間置き、枝を回収後、側枝ごとに当年生シュートのクチクラコンダクタンス(gc)と水ポテンシャルを測定した。その結果、gcが3-4 mmol m-2 s-1を上回るシュートでは水ポテンシャルの顕著な低下が観察された。こうしたgcの顕著な低下は外表ワックスの剥離では説明できず、クチクラが破壊されるような傷害が必要であることが推察された。さらに、極寒の亜高山帯で針葉が枯死を起こすgcの値を明らかにするために、12月から3月までの4か月間に針葉からの損失する水の量を計算した。水ストレス時には、含水量の22%を失うと茎木部のほぼすべての仮道管で空洞化が起きて枝の枯死の可能性が高まる。1 mmol m-2 s-1のgcを示すシュートでは3月後半になってから茎の空洞化が起きる水の損失量に到達した。一方、gcが3 mmol m-2 s-1のときには、シュートは2月前半で、5 mmol m-2 s-1のシュートでは12月中にこのレベルを越えていた。雨や融雪による水は表面吸収されることで針葉の乾燥ストレスを解消することが知られている。縞枯山では、2月中旬から針葉へ水の供給が期待される。このことを考慮するとgcが1 mmol m-2 s-1のシュートは確実に越冬できるが、3 mmol m-2 s-1以上のシュートでは冬の間に枯死する可能性が示唆された。茎の柔組織からの水の供給など今後、考慮すべき事柄はあるが、風による針葉の傷害がもたらすわずかなgcの違いが冬季のシラビソの枝の生存を左右することが示唆された。


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